税の豆知識

2007年5月号『所得税 その7-個人から法人へ(法人成り)』


4月は確定申告も終わり、本来ならゆったりと過ごせる時期でしたが、何だかんだでバタバタしてしまい、あっという間に5月です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

今回は事業所得の総括をしたいと思います。




いきなり法人を設立されるかたもみえますが、まず商売は個人事業主からはじめるのが一般的でしょう。設立や解散には手間も時間もかかるし、個人の簡単な申告なら自分でもできますが、法人税の申告は煩雑で、税理士に依頼せざるをえないケースが多いからです。

もちろん個人事業しかできない(例えば税理士が法人組織にするには税理士法人にするしかなく、そうすると二人以上の税理士が必要)業種もありますが、まずは個人で始めて腕試しをし、法人にしたほうが税金が安くなるからということや、信用力が増すといったことから、時機を見て法人にするパターンが多いと思います。

私も新規開業の方の相談を受ける場合、まずは個人で始めることをお勧めいたします。というのもその他にも消費税の問題もあるからです。以前ふれましたが、消費税の課税事業者は基準期間(前々事業年度)の課税売上が1000万円以上の事業者ですから、新規開業の場合、初年度から1000万円以上だとしても、その年も次の年も消費税は免税なわけです。基準期間がないからです。ですから、2年目の終わりか3年目の初めにいわゆる法人成りするのが得策なわけです。





次に法人成りの注意点です。


個人事業でも欠損金(いわゆる赤字)は3年間繰り越せます。前回説明しましたが青色申告の場合の話で白色ではだめです。

例えば平成19年度が赤字100万円となってしまったら、翌20年に150万円利益(所得)がでても、19年度のマイナスを引っ張ってきて50万の所得となるわけです。翌20年が40万円の黒字しかなくても、引ききれない60万円は21年、22年と3年間繰り越せるわけです。もしこの繰越欠損金があるまま法人成りしてしまうと、せっかくの損失が無駄になることもありますので、注意が必要です。


次に個人で取得した許認可関係の資格は、法人で改めて取得しなければならないということも注意が必要です。許認可の内容によっては簡単な届出だけで法人に変更できるものもありますが、改めて新規として取得しなければならないものもあるので、あらかじめ調べておくことが肝心です。


最後に決算期です。個人は暦年ですので嫌がおうにも12月決算ですが、法人の場合は決算期を法人が選択します。いつでも自由で例えば8月28日決算でも可能ですが、通常は月末です。8月決算なら8月31日といった具合です。時々得意先の請求書の〆日に合わせて20日決算というのもあります。例えば8月20日決算とかです。

問題は何月にするかですが、これは2点に留意してください。

まず、法人税と消費税の申告は決算期以降2ヶ月以内となっていますから、例えば3月31日決算でしたら、5月31日までに申告・納税となります。会計事務所に任せているとはいえ繁忙期や資金繰りの悪い月に会計事務所の問い合わせに付き合ったり、納税資金に頭を悩ませるのは得策ではありません。そこを踏まえて決算期を決めてください。

同時に利益状況の把握です。決算期直前にはおおよそいくらくらいの売上、利益になるのか目途がたっておれば申告・納税もゆとりがもてますし、金融機関に対しても事前に信憑性の高い報告をしておけます。ですから、売上が不透明で、年によって増減が激しい月を決算期に持ってきますと、「締めてみなければわからない」ことになってしまいます。もちろん業種によっては全く見通しの立たないものもありますが、できるだけ一山こえて、安定的で穏やかな収入・利益がある月を決算期に持ってくることも大切ではないかと思います。

二点目は第1期はなるべく11ヶ月と何日、というのがよいでしょう。無頓着に決算期を決めて設立した方で、設立して1ヶ月もたたずにもう決算というケースもありました。もしその1ヶ月ない第1期の売上が例えば84万円あったとすると、設立してから約13ヶ月後の第3期からいきなりもう消費税の課税事業者です。といいますのも、第1期は1年に換算しますので、12ヶ月あったなら1008万円(1月未満は1月で計算)あったとみなされるからです。

会計事務所の都合「うちは3月決算が多いので暇な6月決算にしてくれ」などには絶対従わないでください。とても親身になっているとは思えません。


今回もとりとめのない話になってしまいましたが、それではよろしくお願いいたします。




2007年の目次

12月号『所得税-その14…山林所得』
11月号『所得税-その13…退職所得2』
10月号『所得税-その12…退職所得』
9月号『所得税-その11…給与所得2』
8月号『所得税-その10…給与所得』
7月号『所得税-その9…不動産所得2』
6月号『所得税-その8…不動産所得』
5月号『所得税-その7…個人から法人へ(法人成り)』
4月号『所得税-その6…事業所得(青色申告)』
3月号『所得税-その5…事業所得』
2月号『所得税-その4…配当所得』
1月号『所得税-その3…利子所得の続き』
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